【考察】「みえないよるに。」2部7曲目(15)を読み解く【その2】 2009.01.21[水]
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最初で最後の「デート」に、ミクは何を思う?
■昼と夜
「みえないよるに。」は、前半のノリノリでポップな「昼パート」と、
少しジャジーな要素が加わった「夜パート」の2部構成になっています。
複数の曲調が一つの曲に入っている構成。それぞれに主題をもち、異なる展開をしていく。
これ自体はプーチンP作品でよく見られる手法ですが、他には見られない特徴が一つ。
「どちらも同じ人物(ミク)が歌っていること」です。
プーチンP作品においては、曲調はそのまま歌い手の心情とリンクしていることが多いです。
好例が、「ぬすみはげどう?」(レン)、「なやみむようっ!!」(リン)ではないでしょうか。
ごく大ざっぱにいうと、レンは複雑で暗く、リンは単純で明るい曲調。
では、「みえないよるに。」はどうでしょうか。
「昼パート」と「夜パート」でミクのまったく異なる心情を表現しているのではないでしょうか。
時間(昼と夜)、舞台(遊園地とジャズバー)の変化はあるものの、
同日・同じ相手(ドナルド)とのデートです。
この変化はいつ生まれたものなのか。そして、いつ発露したものなのか。
それでは、ミクが『初めて君とデート☆』に臨むまでの気持ちを考察していきましょう。
■お手をどうぞ
2部作品でミクが登場する作品には「まほうはじゃどう」「いっしょじゃない」「またあえたら☆」
が挙げられます。
リンレンに次ぐ「第3の人物」として恥ずかしくない、なかなかの活躍ぶり。
ただし、彼らに比べ彼女が心情を語っている場面は少ないと思いませんか?
生い立ち、普段の生活などパーソナリティのほとんど見えないミクが、唯一心を動かしているもの。
それはドナルド。
作品を追うにつれ、ドナルドに傾倒していく気持ちが強まっていますね。
『はじめまして! 写真はダメ』『私はミクよ!』(「まほうはじゃどう」)とつんけんした態度。
ミクは、孤高のお姫様。
誰かに心を奪われることもなく、常に他人を見下した態度です。
私の場所に踏み込まないで!と言わんばかり。
でもそれはきっと、さびしさの裏返しなのでしょう。
「アイドルのミク」をちやほやすることはしても、初音ミクという「一人の女の子」に真剣に向き合うことはしなかった。
誰一人として"私の場所"に踏み込んでくれなかったのではないでしょうか。
そこに颯爽と現れたのが我らがドナルド。
ここでいうドナルドは、実在しない「幻覚の世界の住人・ドナルド」です。
彼は、現実世界のステータス(ミクがアイドルであること)なんて関係ありませんから、
ミクにとっては新鮮な出会いだったと推測できます。
アイドルというステータスに関係なく、私のことを見てくれる。
彼女は彼の行動や言動をそのように受け取ったのだと編者は考えます。
恋を自覚したミク。たぶんこのような経験には乏しいはずなので、有頂天になります。
ミクのわがままに対しても、ドナルドは優しく笑って"大好きなんだ"とこたえてくれる。
ミクはドナルドにどんどんのめりこんでいきます。
しかし、ある時彼女は小さな違和感に気づきました。
彼は、私ではない誰かを見つめている…?
ここで、「ドナルドはリンに執着している」ことが判明します。
(「まほうはじゃどう」ではミクはドナルドとリンの戦いを知らなかったはず。
「けっせんとうじつ!」までのあいだに、「ドナルドとリンの関係」をミクが知ったのだと推測します)
どこまでミクが「知った」のかはわかりません。
しかしその後、眼中にもなかったであろうリンの告白現場を見に行っています。
ミクがそこへ行った理由は、(→詳細:ご一緒にポテトはいかがですか?)
ドナルドに指示されたという側面も否定できませんが、
『わたしの 今彼は やさしい(M)~』と言うように、
「あなたに彼(ドナルド)は渡さないんだから」と、リンに対して釘をさしにいく焦りの気持ちや、
『けどね 恋するあなたは 少しだけ 輝いた…』と心のどこかでリンを羨み、応援したい気持ちなど、
理由は一つではなかったでしょう。
さまざまな思いが交錯していたに違いありません。
これを受けての「またあえたら☆」。(→詳細:彼女は2度繰り返した)
彼にとって、『私は ただの道具?』
小さな不安が、大きくなっていきます。忘れたい過去の傷が、再びよみがえります。
でも、彼から離れたくない。
ミクのドナルドへの思いは募っていくばかり。
彼女は恋を知った。
もう恋を知る前には戻れない。
けれども、その恋の行く先がミクには見えません。
自分の口を借りて話す"預言者ミク"の言葉は、ミクにとって「望まない未来」です。
ドナルドとの会話によって、どこまでの事情を知ったのかははっきり明かされませんが、
「ドナルドといられる時間はもう長くない」と、どこかで覚悟していたのではないでしょうか。
別れの予感を胸に、ミクは『初めて』のデートへ。
■溶けてしまえたら

デートに臨む、このミクの服装は…。
"ピンクのスカート お花の髪飾り"さして出かけてますね。
ちなみにお花は「ねぎぼうず」だそうです。(情報元:しゅら@in)
加えてニーソックスは赤白のドナルドカラー。装備は完璧です。
"プーチンP世界"の中で登場する、「初音ミク」の代表曲(?という表現でよいでしょうか)「メルト」(別窓開きます)。
「ゆめをみようよ。」では、『メルトを聴いて 溶けてしまいそう』と、
リンがこの曲を聴いている描写がありましたね。
(→詳細:耽溺する子供たち(リン編))
当時のリンは、明るい恋の予感を歌った「メルト」の主人公をそのままミクに重ね合わせ、
「ミクはいいよね。それに比べて『あたしは逢えない』…」と卑屈になっていました。
「みえないよるに。」はどうでしょう。
現在のミクと、"メルトの主人公"とは、明らかに境遇が異なりますよね。
そんなミクが"メルトの主人公"と同じ服装をする心理とは、どのようなものなのでしょうか。
考えられるのは、「"メルトの主人公"になりたい」という気持ち。
『初めて君とデート☆』なのです。"大好きなんだ"と言ってくれる彼と。
"メルトの主人公"よりも、ミクは幸せなはず。
でも、「"メルトの主人公"になりたい」。
これは正確に言うと、「(ドナルドとの恋を)"メルトの主人公"がしているような恋にしたい」
というミクの願望の表れだと編者は考えます。
「ドナルドといられる時間はもう長くない」ことを知っていたからこその服装。
"預言者ミク"の言葉は運命かもしれない。でもその運命に私は逆らいたい。
祈りにも似たミクのささやかな抵抗こそが、"ピンクのスカート お花の髪飾り"だったのです。
続きます≫その3
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